「DVでも離れねぇ、サツにタレコミもしねぇ、それどころか当たり前のことだと思ってやがる。そっちのが異常だな。…まさか、親父が相手だったとは」


…そうか、そうだよね。

さすがにないよね。


──お母さんやわたしに対するお父さんの暴力は、常軌を逸していたんだ。


「やっぱり、うち、おかしかったんだね」


心のどこかでそんな気はしてた。


みんなジャージに着替える時、痣や殴られた痕が全然なかった。


みんなお父さんやお母さんの愚痴は言っても、わたしのような内容ではなかった。


でもわたしと一緒で、話したい内容ではないから、ひたむきに隠しているんだと思ってた。


境遇はきっとみんなもおんなじなんだって、おんなじ思いを抱えてるんだって。……そう、わたしは思い込んでいたかった。


じゃないとこれから先、どう生きていけばいいのかわからない。


──これから先、わたしはどうやって生きていけばいいの?


「俺は親の顔を知らねぇ」

「…え?」


目の前が真っ暗になりかけた時、深瀬くんは低く少し控えめな声で言葉を放った。


その声に、わたしは俯いていた顔を上げる。


深瀬くんはすでに箸が進んでいなかったお弁当を横に置き、ベンチの背もたれに身を預けて、どこか遠くを見つめた。


「今いるのは形だけの親。偽物だ」