「──ごめんなさい!」


お母さんの声が、小さく聞こえた。


…お父さん、帰ってきたんだ。


静かにベッドから降り、ドアを開ける。


「てめぇの作ったもんなんか食えるか!!」


深瀬くんみたいに、ドスがきいたお父さんの声。今日もまた、どうでもいいことで怒っているのだろう。


音を出さないよう、ゆっくりと階段を降りる。廊下からこっそりお父さんとお母さんの様子をうかがう。


途中で止めに入らないと。お母さんが倒れる前に。 


「でも、今日は咲良が好きなラザニアだから……きゃっ!」


お母さんが髪の毛を掴まれ、テーブルに押しつけられている。

この光景にも見慣れてしまった。


それでも胸は小さく震える。

わたしが落ち着かなければと、深呼吸をしてぎゅっと手を握った。


「だから何だってんだよ!ガキが好きなもんを俺に食わす必要ねぇだろうが!」

「痛いっ!離してくださいっ!」

「誰に向かってモノ言ってんだ?!俺がどこで誰と飯を食おうが勝手だろ!」

「ごめんなさい!」