心臓がドキドキしてる。
2、3回深呼吸をしてテーブルに戻ろうとしたら反対方向だったみたいで。
智樹に笑われた。

くやしい……。




「たのしそうですね。何の話ですか」


大島リーダーが笑顔で言う。


「栄さんがサイテーって話」

「なんだよ、それ」


智樹が不満げに言う。
しかし、さっきまでテーブルにいたときとは雰囲気が明らかに違うため大島リーダーが少し驚いたような表情をした。


「そういう栄さん、初めて見ました」

「栄さん、笑わないキャラなんて。作りすぎですよ」

「うるさい」


テーブルのグラスに口をつける。
隣にはチェイサーもあった。
智樹に違いない。
さりげなく、気遣いをしてくれる。


「次は相田さんですよ」

「なんのこと…」


イヤな予感。
知らないふりして聞き返すが予想通りの質問がきた。


「彼氏さんはどんな人ですか」


終わったと思っていた話題。
智樹はニヤリと笑っている。
さっき、嬉しいこと言ってくれたしなぁ。
うーん…。
もし、一言で表すなら。


「…だれよりも、あたしのことを信じてくれる人」


テーブルが静かになった。
や、ちょっと真面目に答えすぎた。
はずかしい。


「素敵ですね」


大島リーダーがしみじみと言う。
チラッと見た智樹の顔が赤い。


「栄さん、赤くないですか」


仕返しで言うと智樹がにらむ。
覚えてろよと目が言ってる。
大島リーダーは不思議そうに見ていた。
時刻は21時過ぎ。
解散するには早いけどいいかな。

「これ飲んだら帰りましょうか」

「そうですね」





***



会計を済ませ、大島リーダーを見送る。
智樹はすでにいなかった。
あたしの泊まるホテルはここから歩いて5分ちょっと。
少し行くと智樹がコンビニの外でタバコを吸いながら待っていた。


「行かないの」


あたしは智樹から渡されたカギを目の前に出した。
智樹は忘れていたようで、吸っていたタバコを途中で消した。


「泊まらないんじゃなかった?」

「泊まってほしくないの?」


あたしは質問に質問返し。


「おなじだから。あたしもふれたいって思ってる」


さっき智樹が言ったこと。
あたしがそんなことを言うとは思わなかったみたいで、智樹は少し驚いた表情をした。
それからフッと笑った。


「やけに素直」

「言っていいんだってわかったから」