「兄上、旅をしながら楽団をするのかい。あたしはどうも楽譜をみるのが嫌いだね」

叔母上は面倒くさそうに、顔をしかめた。

「葵、視察行脚と言っても堅苦しく考える必要はない。様々な物を観て様々な事を楽しんでこい」

「はい、父上。鍛錬に行きます。昼から準備を」

姿勢を正して1礼し退出すると、凛音が駆け寄ってきた。

「王子、ひどいですよ。起こしてくだされば」

「あ──あまりに気持ちよさそうに眠っておったから起こすに忍びなかった」

凛音には公務で西の都を視察以来、1カ月近く心配ばかりかけている。

朔以降はとくに俺が動けない分、雑用まで世話を妬いてもらっている。

調子よく起きた日くらいは、ゆっくりさせてやりたかった。

「凛音、視察の件はたった今、王陛下に許可を頂いた。明朝、発つ。準備は間に合うか」