注射器のピストンが半分まで押しこめられ、王子の身体から強張りがパタリとなくなり、何の抵抗もしなくなった。

「ハーン殿、意識が……失神した?」

紅蓮殿は王子の腕を持ち上げ、脱力したことを確かめて訊ねた。

「その方が良かろう。押さえつけられて骨が砕ける心配もないからの」

ハーン殿は手を止め、顔を上げて答えるとピストンを最後まで一気に押し込んだ。

「朝からの鍛錬には動けるかと。気掛けて様子を観ていてくだされ。体力消耗が激しいのでな」

ハーン殿は注射器を抜きながら、わたしと紅蓮殿に「頼みましたぞ」と念を押した。

ハーン殿と紅蓮殿は数時間、王子の間に待機し王子の様子を観ていたと思う。

わたしは朝まで王子のベッドの傍らに付き添っていた。

ついうとうとし、いつの間にか眠ってしまい、気づいた時には、カーテンも開いていて、窓から差し込む朝の光が眩しかった。