「王子、本当によいのですな」

ハーン殿が念を押す。

王子は深く首を頷いた。

ハーン殿がアンプルを開けると、薬品の毒々しい匂いがツーンと鼻をついた。

漢方薬とか予防接種ワクチンの匂いとは何処か違っていた。

ハーン殿は注射器の針をアンプルに入れピストンをゆっくりと引き上げ、灯りに翳し中身を確かめると、王子の肌に突き刺した。

王子の身体が大きく跳ねエビぞる。

ハーン殿は王子に「歯を食いしばりなされ」と一喝し、ピストンを押し入れていく。

顔を背け耳を塞ぎたくなるような悲痛な叫び声が聞こえた。

布団を鷲掴みにし、痛みを堪える苦しげな呻き声が全身を貫く。

上半身を押さえた紅蓮殿が王子の跳ね返す力に、改めて両肘で王子の肩を押さえ直した。

痛みで仰け反る王子の足に体重を掛け、振り落とされないよう膝に力を入れ、わたしは懸命に踏ん張る。