「峠を越えれば朱雀の社も近いな。異変があった時にも備えねばならぬ」

「葵くん、くれぐれも龍神の力を使ってはなりませんよ」

「……それは朔で懲りておる」

朔の後、目覚めた時の失望感は忘れられない。

夜は寝る前、朝は目覚めるたび不安になる。

近づいてくる朔が恐い。

前を歩く凛音が時々、後ろを振り返った。

澄んだ空気と森林の匂いの中を進む。

耳がキーンとなるほどの静けさに、身が引き締まった。

「紅蓮! 祥!」

俺は小声で呼びながら、腰に差した三節棍に手を掛け、祥の背を降りた。

刹那、何処からともなく現れた男たちに取り囲まれた。

凛音は叔母上の盾になり長巻を構え、紅蓮と祥は長刀を構えていた。

俺は祥と背中合わせに立ち、三節棍を構えた。