顎髭をたくわえた紳士風の男性も、ステッキを肘に掛け深く頷いている。

「葵くん!」

凛音がヴァイオリンを仕舞い掛けたまま、動かないでいる俺の肩を揺さぶる。

ハッとしてヴァイオリンを仕舞い、松葉杖を受け取って立ち上がった俺に、老夫婦が深々と頭を下げた。

「……俺は別に何も……良かったですね」

昨日の少女といい目の前の老夫婦といい、俺にはまだ信じられなかった。

顔を上げた老夫婦の笑顔が清々しかった。

俺は宿を出て暫く、無言で歩いた。

祥と叔母上がしきりに、ヒーリングについて話していた。

「ヒーリングには幾つか種類があるのさ。自分の生命エネルギーを人に分け与えるタイプ、本人の自然治癒力を活性化させるためのきっかけを与えるタイプ、大宇宙からエネルギー……森羅万象の気をおろす媒体タイプ」