部屋から松葉杖をつかずに出ようとしたが、凛音に上目使いで睨まれ渋々、松葉杖をついた。

眉を怒らせた祥の顔が恐くて「ごめん」と呟いた。

気を取り直し演奏し始めたが、弾いているのは俺だけだった。

少しアレンジが強引過ぎたのを責められている気がして、凛音の顔をじっと見つめた。

不安そうな顔が俺の足を見つめ、ヴィオラは既にケースにしまい込み、手には松葉杖を握りしめている。

心配性だなと思うが、心配を掛けているのは俺自身だと思うと、申し訳なかった。

アレンジ無しで感謝を込め、少し余裕を持たせゆったりと曲を弾く。

「やめないで」と声を掛けた初老の夫婦は仲むつまじく、膝上で手を繋いでいた。

顎髭をたくわえた紳士風の男性はステッキを握りしめ、体を支えていた。

双方から膏薬が微かに臭ってくる。

俺もきっと膏薬臭いのだろうなと思う。