【短編】幼なじみの隆也


私は泣いていた。

理由は2年間ずっと好きだった2個上の先輩に告白したら振られてしまったから。

最初からわかっていたけれど。

先輩に可愛らしい好きな人がいるのもわかっていたけれど……。

それでも悲しくて涙が止まらない。


「沙耶?」


声の方を向くと幼なじみの隆也だった。

いつも私のことを馬鹿にして見下して、まるで独裁者のような幼なじみ。


「な、泣いてんのか」


おどおどした様子で聞いてくる隆也に苛立つ。

こういうときに隆也に何か言われたら私は立ち直れる気がしない。


「ほっといて」


震える声で隆也に言う。

ああ、そのまま階段で泣き崩れるんじゃなかった。

トットッ、と階段を下りる音が聞こえる。

隆也が近くにくる気配がする。


「ねえほっといてって、こっちこないでよ」


私は隆也を否定したのに、隆也はこちらにきて終いには抱きしめ始めた。


「やめてって」


涙がボタボタと溢れ出す。

最悪だ。


「ほっとけるかよ」


その言葉が隆也から発された声だとは信じられなかった。


あまりにも優しく、悲しげな声だったから。



私を抱きしめる腕は、体は、隆也は、震えている。

震えながら私を抱きしめている隆也がここにいる。


「なんで泣いてんだよ」


隆也はポツリと言う。



私は途端、思い出した。



幼稚園に通っていたとき、男の子に砂場で砂をかけられた私は男の子に立ち向かった。


「やめて!」


それでも男の子は私に砂をかけてきたから私もやり返そうと砂を握った途端、隆也がその男の子にグーパンチをした。


「何すんだよ!」


「サヤ嫌がってんだろ!」


隆也は震えていた。

私は泣き出した。

男の子に砂をかけられたのが嫌だったのか、怒りながら震えている隆也なんかに守ってもらったのが嫌だったのか。

それでも隆也がきてくれて嬉しかったからなのか。

そのときの私にはわからなかったけど私は泣いた。

私が泣き出した途端、隆也は男の子なんかお構いなしに私の元へきてこう言った。

「泣いてんのか、サヤ」

おどおどと私の様子を窺うように聞いてきた。

私が嗚咽で何も答えないと、隆也は私を抱きしめた。

「なんで泣いてんだよ、泣きやめ」

そうして隆也は私が泣き終わるまでギュウと抱きしめ続けていた。




「……沙耶?」


私はいつの間にか泣き止んでいた。

あの頃に比べて、すごく大人になった隆也。

私を抱きしめる腕はゴツゴツしてガッシリと私を離さない。

いつから洒落だしたのか覚えていないけれど、首からぶら下げているシルバーのネックレスにふんわり香る香水の匂い。

それでも隆也の匂いがする。

あの、砂場での隆也の匂い。


「もう大丈夫だよ」


そう言うと隆也の腕はフッと力を緩める。

隆也と目が合うと隆也は泣いていた。


「なんで泣いてるの」


私が聞くと隆也は私の目尻に指を這わせて涙を拭き取る。


「ホントに大丈夫か?」


涙を流しながら私に聞く隆也。

大人になってしまったと思っていたけれど全然そんなことなかった。

砂場で私を守ってくれた、いつも威張っているけれど本当は臆病で優しい隆也のままだった。


「大丈夫だよ」


私は、隆也の私への気持ちを確信する。


けれど私はその気持ちに答えることはできない。


隆也は私の気持ちを知っているからきっと、何も言ってこない。

言えないから、こうして態度で示してくる。

私を抱きしめたり、頭を撫でたり、スキンシップをとってくる。


私は、そんな幼なじみの隆也との関係が心地よい。



とても、心地よい。



ここまで読んでくださりありがとうございます!
作者の 楠木いよ と申します。

好きな子のために泣いてしまうような、か弱い彼。
自分のことが好きなのだろうと確信するけれど、私は彼を好きになれない。
彼にとっては結構しんどい恋愛してるんだろうなぁ、と思いながら執筆しました(笑)

プロットも何もないままほぼ勢いで書いてしまったので色々と抜け目はあるかもしれませんが、ご了承ください……。

感想などいただけたら嬉しいです。
また、他に『年下彼氏くん』という作品もありますのでそちらもよろしければご覧下さい。

野いちご愛読者の皆様にピュアな「キュン」を届けられていたら幸いです。

2017/07/02 楠木いよ

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