突然のことで言葉が出ない。
高城くんはあたしの顔を見てふっと笑った。


「別れない自信あるんだろ」

「そ、れは…」


言いよどむと「そこは”うん”って返事しとけよ」と呆れられた。
だって。まだちょっと理解できない。
あたし、頭の回転は速い方だって思うけど。
仲はいいほうだって思ってたけど、それは同僚だからだと…。

高城くんがあたしの隣りに並んだ。
少し開いていた距離が無くなった。


「やっぱり送らせて」

「いいよ、大丈夫」


新宿駅はもう目の前。
あたしはさっきと同じように断る。
すると高城くんはあたしの手を掴んで歩き始めた。
グッと引っ張られ、あたしは慌てて着いていく。
でも歩く速度はゆっくり。


「彼氏の役目」

「え…」


聞き間違いかと思ったが、照れくさそうな表情が見えて本当なんだとわかる。


「会社近くで手つなぐなんて今日だけだから」

「うん」

「周りにも隠すからな」

「うん」


返事をしつつもうれしくて自然とニヤけてしまい、あたしはストールで顔を隠した。


「やっぱり、面倒なことに手を出したかもなぁ」

「なにそれ」


冗談を言い合うのはいつものこと。
でも、今日からはその関係も特別。
やっぱり面倒だったなんて言わせないから。