つき合いたいから会社を辞めようと思ったわけじゃない。
断られたときに、そのあともずっと同じ職場で、何も無かったように仕事が出来る自信がないから。
バッグの中から着信音がする。


「出ないのか」


あたしは少し迷って、でもバッグからスマホを取り出した。
画面には課長の名前。
きっと退職申請のことだ。


「だれから」

「…課長」


あたしは後で架け直そうと思い、電話を切った。
すると今度は高城くんがスーツのポケットからスマホを取り出して電話を架ける。


え、ちょっと。
なんで。
いま、そういう流れじゃないでしょ。
そうは思うけど、スマホを取り上げることは出来なくてあたしは高城くんを待つ。


「あ、おつかれさまです。高城です。」


口調から社内の人だとわかる。
聞いたらまずいかなと思い、あたしは少し離れようとした。
しかし、高城くんがじっとこちらを見る。


「あの、浪岡さんの退職申請なんですけど。否認にして下さい」

「高城くん…?」


どういうことかわからない。
そのあとも高城くんは少し話をして、照れくさそうな表情で電話を切った。
ポケットにスマホをしまい、ふぅっと息を吐く。


「課長、退職申請、否認にしとくって」

「うん…?」


あたしがわからないといった表情で首を傾げたため、高城くんは言い直す。


「浪岡は仕事辞めなくていいってこと」

「そうじゃなくて…」

「浪岡のこと、好きってこと」

「え…」