「~~で、あるからして、えー、ここは解の公式を当てはめて、えー………」


午前10時の初夏の空。
どこまでも澄み渡っていて、宇宙までこの青い空が広がっているような錯覚に落ちる。

(こんなに空が青いのに数学なんかやってるこっちが馬鹿みたいだ)

窓際でぼんやりと外を眺めながら、須木虹は自分の瞼が重くなっているのを自覚していた。


ぽっかり浮かぶ雲は風に流され形を変えていく
空の水色と白が溶け合っていく


(ああ…ソーダ水にバニラアイスが溶けていくみたい。きっとびっくりするくらいキンキンに冷えていて、飛び上がるくらい甘いんだ)

三治玄が唐突に現れ、それをスプーンに乗せる

「ほら、虹。あーんは?」


「うあああああ!!!
そんな、みんなの前で恥ずかしいよ!!!」


咄嗟に立ち上がった虹は周囲を見渡して自身の状況に気づいた。

居眠り。
だけならまだしも盛大に寝言を言いながら立ち上がり教室中の注目を浴びている。



「須木、居眠りするならこの問い2。
分かるんだろうなぁ?」


チョークで乱暴に黒板を叩く教師は眉を歪める

教室のあちこちから聞こえるクスクスとした笑いと、後ろの席の須屋のため息が、須木の汗を冷やしたのだった。


冷や汗をかきながら頬を赤らめる須木は、バツが悪そうに斜め下を見た。
(なーんでいつもこうなちゃうんだろ…)