三年間着続けたパジャマの袖は汚れ切って、淡いピンクの生地である事を忘れそうだ。

その袖をまくり上げて、深く深呼吸する。

「さぁーーて、始めますか!」

深夜23時。
これからの一時間は、須木 虹(スキ ニジ)にとって神聖なる儀式といっても過言ではない。

おもむろにパソコンを開き、動画サイトを漁る。虹がいつも眺める動画には決まっていつも同じ人物がいた。

「ん~~~!!!ゲン様さいっこぉ~~!」

ーーー奏(カナデ)学園2年
三治 弦(サンジ ゲン)
吹奏楽部の副部長

長めの黒髪が、彼のホルンに合わせてなびく。巧みな演奏技術は、彼の所属する吹奏楽部が昨年まで廃部寸前だったことを忘れさせる。

細いキレ目の瞳は楽譜から指揮者へ、指揮者からメンバーへ、眼差しは真剣そのものだ


ーーー彼は虹にとって最高の人物だ。

「あーもう!なんでこんなにカッコイイんだよ…つらいなぁ~~」

出来ることなら、彼氏にしたい。
弦には問題点も欠点も無かった。パーフェクトだ。



ただ一つ、
次元が一つ下ということを除けば………