こっそりあたしの寝室のドアを開けて「ただいま」それだけを言って扉を閉める事が多々。何となく気配で目が覚めた時は気恥ずかしくて起きられなかった。
ここにきて少しは時間が経ったけど相変わらず詳しい話は何も知らないから優達がコソコソと話している現場を目撃すると何となく行きにくい。行ったら行ったでまるで今まで話なんてしなかったようにピタリと会話を止めるんだけど。
皆の力になれればなんて思っても話しすらわかっていない状況じゃ何も出来ない。
「いやあーやれやれ困ったもんだ」
長い嘆息を吐き出した所でまた再び携帯が震えだした。今度はなかなか震えが止まらない。どうやら電話らしい。
もしかしたら優だろうか?携帯にもう一度視線を這わせれば懐かしいとも思えるそれが映し出されていた。
耳に携帯を運ぶまで少しだけ時間がかかる。何となく緊張して喉がごくんと音をたてた。
「も、もしもし」
しまった、声まで上ずったぞ。しっかりしろ。
『もしもし?…元気…なの?』
携帯に映し出されていた名前はお母さんだった。つい二、三週間だらだら人生を送っていたあたしは親と口論になってそのまま飛び出したままだったんだ。
おずおずと聞かれてあたしは口ごもりながらもソファーに腰をゆっくりと落とす。膝を上げ、抱えるような格好を取りながらもそうか3週間も経ったのか、実感する。