「愛理ちゃん大丈夫?」



あたしの前にゆっくりと腰を下ろした優が目線を合わせると「びっくりしたやろ」自分の膝に額を一度押し付けて、ふっと顔を上げる。眉尻を下げた優も、かなり慌てたようだ。



あたしは「びっくりした」言う代わりに頭をブンブンと勢いよく縦に振った。いやいや驚いたなんてもんじゃない、幻覚を見たのかと疑うほどだったよ優さん。



「隼人は寝起き悪い時いっつもあんなやねん。ちゃんと目、覚ませばいつも通りやから」




なるほど。翼や空のあの哀れむ態度の理由はこれだったのか、やっと理解した。通りで皆行きたがらないわけだ。



「俺らなんていきなり殴りかかられた事とかあんねん。」


「それは恐ろしいっ」


「ほんま、その時々で態度色々ちゃうけど、まあ大体あんな感じやな」


「いつもの隼人くんからは想像もできないよ。まさに二重人格だった」


「やろ?やけど、あいつ起きたばっかりの記憶全然無いらしいねん。」


「半分寝てる状態なのかなあれって」



しゃがみこんでいるあたしにゆっくり手を差し出した優の手の平に反射的に自分の手を置くと力強く引っ張り上げてくれる。重い腰が軽々と持ち上がった。男の子って凄いよなあ。



「たぶんそうやろなあ。やからあいつが起きてくるまで起こしにいかん方が身の為、」




なるほど身を持って知ったからその意味が今になって良く分かったぞ。



「まあ、午後になったらさすがに起きるやろ。」


「それならいいんだけど、しかしもうこの魔の部屋には立ち入れそうにありません」


「俺もそうしていただけると安心です」


「隼人くんが起きてくる間、洗濯しちゃおうかな。バタバタしててまだしてなかったんだ。」