こ、この子はどなた?



あたしを頭上から見下ろす隼人くんは隼人くんじゃない。これはあれだ…あ、悪魔だ。


黒い翼が見える。黒いオーラもどんどん増えていってるように見える。あれれ、「愛愛―!」あの笑顔の可愛い隼人くんの欠片も無いぞ。



「隼人!愛理ちゃんやでその子!」



硬直するあたしに慌てて優が部屋の中へと入ってきた。隼人くんの肩を掴み言い聞かせるように「愛理ちゃんやって、分かるやろ」言うけれど、隼人くんはユラリと不気味な動きで肩ごしに優を捕らえると無言のまま鋭く睨みつける。



「うるせえな黙れ」



ど、どどどどちらさまあー!



あなたはどちら様ですか!そんな子あたしは知りません!優は「――ひっ、」小さく悲鳴を上げて隼人くんの肩にかけたその手を離す。そりゃ悲鳴も上がるよね!見た事無いような恐ろしい顔の隼人くん。悪魔と言うよりもはや般若の方がしっくりくるような…。



優から視線をゆっくりと真下にいるあたしに移した隼人くんは瞳に鋭さを保ったまま、ゆっくりと片手を伸ばしあたしの肩を強く掴んだ。



ごくん、緊張で生唾を飲み込んだ所で。



「俺の睡眠の邪魔すんな。次邪魔したら犯すぞ」



隼人くんはそう言うとコロンっとあたしの横に寝転がり、また規則正しい寝息がすやすやと…。今のは幻覚でしょうか、いいえ違います。これは紛れもなくこの可愛らしい寝顔でいつも明るく「愛愛―!」言っている子の寝起きの姿です。



優とあたしはしばらく動けなかった。今起きた状況を把握するまで時間がかかって。



けれど少し経ってから優があたしの腕を掴み部屋の外を促した事でやっと動けるようになった。ベッドから音も立てないように恐る恐る降りる。



隼人くんの部屋から出るまであたしも優も一言も言葉を発しなかった。



慎重に部屋の扉を後ろ手に閉める。廊下に出たあたしはそこでやっと「はあー」息を吐き、ズルズルとその場に座り込んだ。



頭上からも同じように「はあー…」疲れたような溜息が落ちる。