そんなにあたしが信用ならないのか皆!これしきの仕事が出来ないと思われちゃあたしも終わりだ。ここはしっかり見せつけてやらねばいかん。
台所の部屋を出て廊下に出ると優が気が進まぬ様子で「こっちやで」あたしの前をゆっくりと歩き出した。いくつもの部屋を通り過ぎてからたどり着いたその部屋の扉の前、足を止める。
「開けないの?」
ドアの前、暫く睨み合っている優が一向に開ける気配を見せないものだから声をかけると「ああー…」「いやあー…」「うーん…」嫌そうな返事が返ってきた。
全く困ったもんだ。あたしは優を押し退けて目の前の扉を問答無用で勢いよく押し開けた。
部屋の中は電気も着いていなく、濃い色のカーテンを使っているからか薄暗い。目を凝らして見ればベッドの中には規則正しい寝息を吐き出す隼人くんが布団を片上くらいまで引き上げ眠っているのが見えた。
後ろを振り返れば廊下から顔だけを出して心配そうにあたしを見つめる優と視線が絡み合う。何を心配してるんだ、全然普通じゃないか。もっとこう、ぐちゃーっとした体勢で寝ているのかと思えば。
【全然平気】声は出さずに振り返った先に居る優にそう伝えれば優は【ううん、全然平気ちゃうで】何をおっしゃっているんでしょうこの子、驚愕な表情で告げてくる。
付き合ってられん。あたしはゆっくりと隼人くんが居るベッドへと近づいた。袖を大げさにまくり、息子を起こす母親の気分で声をかけた。
「隼人くん朝ですよー!グッドモーニングですよー!お昼になっちゃったけど、そろそろ起きて皆で一緒にご飯食べよう?」
返事はない。駄目だ。爆睡中みたいだ。仕方が無いので片手を伸ばす。隼人くんの肩へとかけた所で突然布団の中から伸びた手にガシリと手首を掴まれた。
驚いた時には既に軋むベッドの上に倒れ込んでいてーーーー何事っ。
頭上からヌっと影が落ちてくる。
恐る恐る乱れる髪の隙間から視線を滑らせればあたしの頭上には背中から黒いオーラを放っているように見える隼人くんの姿が。ぴょんといつも上がっているその前髪が下ろされているけれど、それはそれで恐ろしさが増しているように見えるのは気のせいだろうか。