「空くん、ちょっと面貸してもらおうか」
「えーなになに?俺まさかお姉さんに裏でぶん殴られる感じ?いやー怖いー」
「良いから来て!」
問答無用だ!気の抜けるようなふにゃふにゃとした声を出す空の腕を強引に掴み、廊下へと引っ張り出した。
後ろ手にしっかりと部屋の扉を閉め、廊下の奥からまだ隼人くんが起きてこない事を確認する。二人っきりになると空は「これだろ?」余裕めいた表情へと直し、携帯を楽しげに揺さぶった。そうそれだ!まさにそれ!
「さっきのは見なかった事にして、本当に間違って入っちゃっただけなんだ。後その画像も消してよ」
「えーどうしよっかなあー楽しいんだもーん」
「子供か!」
「なら言わない変わりに俺の言うこと一つ聞くことー」
空は気怠げにあたしとの距離を縮めると体を屈め、あたしの耳元へと唇を寄せる。ふーっとわざとらしく息をかけられて「うわっ」悲鳴を上げると空は耳横で楽しそうに笑ってる。
クスクスと笑いながらも、その笑い声を一瞬だけ止め、囁くように声を落とす。
こんなに近くなのにあまりにも小さな声で聞き逃しそうになった。慌てて拾う事に集中すると空は言う。
「言わない変わりにお前は能天気に笑ってる事」
「はい?」
「それだけ守ってくれりゃ、これは無かった事にしてやるよ」
脳天気にって失礼な。しかしそんな事でいいのか?もっと卑猥なお願いをされるのかと思ってた。拍子抜けだなと口を結ぶと。
「それとももっと違うお願いにした方が良かった?期待してたみてえだし」