しーん、場が沈黙に包まれる。
桜の木が青々とした葉を風で揺さぶるその音だけが暫この場をただただ包み込んでいた。残り少ないピンク色が、風が吹くたび儚く散った。
――――あれ?と下げていた頭を徐々に徐々に上げていくと。
「いや、てめえが言うなや」
バシンっと後方から鋭い突っ込みが飛んできた。勿論その声は翼だったけど、その声と共に全員の真ん丸に見開いた瞳が視線に飛び込んだ、次いで「あはははははははははっ!」盛大な笑い声が一気に場を包み込む。男達の盛大な笑い声はグラウンドの奥まで響き渡った。
何事だいったい!何で皆笑ってるんだ!
どこかから、カランとかガシャンとか何かを落としたような音が聞こえた気もするがそれは全て盛大な笑い声にかき消されていく。
大柄な男達が体を折り曲げて笑ってる。それこそブルーシートで転がりまわっている人間も居たりと、なかなか笑い声が止まらない。
え?あたし何かおかしい事を言っただろうか。こんなに心を込めて言ったのに?ちょっとちょっと皆さん笑いすぎじゃ無いだろうか。
翼なんて蹲って(うずくまって)バンバンと地面を叩いている。あいつまじで失礼な奴だな。
「ちょっと!なんで笑ってんのさ!」
「いやー愛理ちゃんにはかなわんわー」
「どういう意味だい優さん!失礼極まりない言葉にしか聞こえないよ!」
「そんな事無いって、いやほんま面白い子やなって思って。」
端正な顔立ちに笑顔を浮かべて優は指先で目元を拭う。あなたもしかして泣く程笑ってたんですか。そうなんですね。
「な?ちょっと変わった子やけど、ええ子やから皆、愛理ちゃんに何かあったら守ってやってな」
あたしの後頭部を一度だけ撫でてそう言った。それに返事するように笑い転げていた面々が顔を上げ頭を縦へと振っていく、優の言葉に従うようにして。
何だか凄い所に来てしまったようだ。