「とぼけてんじゃねえよ。あの女、まあ連れてきたのは実際俺らが原因だけど、どうするつもりなんだよ!」
その嘘を見逃しきれなかった短気な弟が俺の肩に押し当てていた頭を持ち上げ噛み付いた。
今にも本当に優の喉元に噛み付きそうな勢いだな。ただそれは俺も気になっていた事で、俺に代わって聞いてくれてありがとね、と心の中で弟に礼を言っておく。
「どーするもこーするも。昨日言うた通りやけど。愛理ちゃんが居たいだけ居ればええって言ったやろ」
「はぁ!??あたし一生あなたといたいわ、えへ☆なんて言ってきたらどうするつもりだよ」
「あの子はそういう子ちゃうから」
「はいいいいい???昨日会っただけなのに分かるんですかあ?俺にはさっぱり分かんねえな!突然突拍子もねえ行動取るかもしれねえし、呆気なく裏切るか…」
「翼」
怒りに任せ言ってはならぬ言葉を言いかけた翼を紫煙を吐きながら嗜める。弟はハっとしたように俺に視線を滑らせ、すぐに固く口を閉ざした。もうこれ以上は言わない方が身の為だ。
翼がキレるのも無理はねえけどな。優の事を心配してんだから。
押し黙った弟の代わりにと、俺は口に咥えていたタバコを指先で引き抜き「まあ」口火を切る。
「お前の考えてる事はなーんとなく分かるけどな。でもそれは危ねえ橋じゃねえのか?何かに期待する事はやめた方がいいと思うぞ。」
「やけど連れてきたのはお前らやろ」
「それは痛いところを突かれたもんだねえ」
「どういう魂胆で連れてきたのかって考えたら、やっぱりそういう事にしか俺は思えなかったから」
「そういうつもりで連れてきたんじゃねえよー?俺も最初はびっくりしたんだ、色々考えたけどハッキリ言ってあれはたまたま、超偶然。」
「どうだか」
「俺達が他校の奴をぶん殴ってる現場を見られたからさてどうしようかって連れてきた、ただそれだけ、何の意味もねえ。俺達の事は黙ってるっつったんだから帰せばよかったんじゃねえか?」
じりり、タバコの火をコンクリートの地面に押し付けた。