あたしの顔から自分の靴に視線がずれていく。暗い顔をする男の子はどうして女の人が怖いのか、あたしには良く分からない。だけどきっとそれだけ嫌な出来事があるんだと思う。ただの勘でしかないけど。
あたしは首がちぎれんばかりに頭を勢い良く横に振った。ブンブンブンブン、髪が振り乱される。
それに気づいてゆっくり視線をあたしに戻す男の子。
暗い顔をしないでほしい。そんなに可愛いくてかっこいい顔してんのに勿体無い。暗い顔は似合わない。
「そんな事ないよ。そんな事ないから!あたしの事怖い?」
両手をぎゅっぎゅ、交差させたまま本当にゆっくりゆっくり男の子に近づく。近づいてくるあたしに「…ひっ」やっと小さくなっていた震えがまた戻りだす。ここで立ち止まるべきなのだろうか。
一瞬迷ったけど立ち止まったらこの子はまたその気持ちから抜け出せない気がした。
だから優しくゆっくりその子の手を握ってあげた。驚くほど冷え切った手を両手で覆い隠すようにして握り締める。一瞬ビクっと震えた男の子にとても哀しくなった。
自分が拒絶されたのが悲しかったんじゃない。
こんなにもこの子に大きな傷をつくった出来事って何なんだろう。それを思って哀しくなった。
あたしに握られている自分の手を蒼白な顔で見つめている男の子。冷えた手を揉むようにしてぎゅっぎゅと握り合わせて口元を緩める。
「ね……大丈夫だよ。」
少し驚いた顔であたしに目を向けた男の子に優しく語りかけるとだんたんと顔にも色が戻っていく。
ぎゅっぎゅ、握り合わせるあたしの手に一度だけ視線を落とした男の子は確かめるようにしてゆっくりあたしの手を握り返してくれた。
さっきまでの震えが嘘のように止まっている。
よかった。一か罰かの賭けだったから。失敗したらどうしようかと思った。
「名前、言い忘れちゃったね。あたし宮森 愛理って言うんだ。よろしくね」
「…藤堂 隼人(とうどう はやと)」
微笑むあたしを見て、ぎこちなく、ゆっくりと微笑み返した男の子はまだぎこちなくもそう言った。
ほら。やっぱり笑った顔が凄く似合うじゃないか。