「お前と朝から言い合いしたら腹減ったわ。おら行くぞ!」
「いってーな!やめろよ、引っ張んなって!」
翼と隼人くんが言い合いながらも廊下へと出て行く。その後ろを見守るように着いていった空の背中が見えなくなった所でハっとして床に座り込んでいた杏ちゃんの事を思い出した。いかん、いっぱいいっぱいですっかり…。
もう大丈夫、言い聞かせようと腰を上げるよりも早く、既に杏ちゃんの隣にはトシが立っていた事に気づく。心配いらないようだ。
「すいません優さん。」
「いや、こっちこそ。大丈夫か?」
「はいっ、隼人さんの事あたし聞いていたのに…」
「寝起きは別物やからしゃーないやろ。俺らも時々忘れてびっくりする事あるからなあ」
「ごめんなさい」
「もうええから、それよりほら早く飯食おう?」
優に促されまだ気まずそうにしながらも杏ちゃんが腰を上げた。支えるようにトシが杏ちゃんの肩に手を添え、廊下へと出て行く。部屋の中に残されたのはあたしと優だけだった。
自然と、今の今まで隼人くんが居たその場所を見てしまう。あたしを憎しみ込めて見ていたその瞳を思い出した。
「隼人、時々取り乱す事もあるからな。あんま気にせんでええよ」
「そんなの無理だ」
今もあの時の隼人くんの顔が浮かぶ。
「愛理ちゃんが隼人を起こしに行った時、今日ほど酷くならなかったのはやっぱり愛理ちゃんが特別やからやと思う。」
「…っでも」
「前に、空が連れてきた女がたまたま間違って隼人の部屋開けた時はもっと悲惨やったんやで。俺ももっと注意すれば良かったんやけど…、あれから空は自分の女は俺の家に連れてきたりせんようになったからな」
それほど酷い状況だったのか、どんな状況だったのかまでは想像もつかない。