「空、もう大丈夫だから。」


「あ?…ああ」



背中をさすっていた空もあたしの言葉を聞き隼人くんに近づいていく。隼人くんの目は何故かあたしを捕らえていて鋭い視線で睨んでくる。憎い誰かと重ねているみたいで。




「翼、手を離してあげて」


「はあ?」


「この手離したらお前に殴りかかるぞ!」


「いいから」


「駄目に決まっとるやろ。」


「大丈夫だ、きっと。隼人くんあたしなら女だけど大丈夫って言ってたし…」


「それとこれとは別だからねえ、今の状況見たら分かるだろ」




まあ、確かにその通りなんですけれど。他に方法は思いつかない「離していいから」もう一言、添えようとした所で。



「いって!!」



隼人くんがブンっと腕を後ろに振るったそれが翼の顔面に直撃した。



床に尻餅を着いた翼の腕からするりと抜け出した隼人くんがあたしめがけて飛びかかってきた。優が慌てて隼人くんに手を伸ばしたけど間に合わない。



あたしは咄嗟に身構えようとした腕を心の中で叱咤して隼人くんが飛び掛ってきた瞬間、腕を広げて隼人くんをぎゅうっと腕の中に抱きしめた。



そのままボスンっとベッドに再び後ろからダイブする形になった。


空と優があたしから隼人くんを引き離そうと近づいてきたけどそれを視線で静止させる。



隼人くんはあたしのぎゅうっと抱きしめる腕に抵抗するわけでもなく首を絞めてくるでもなくただただ大人しくしている。



「大丈夫。怖くないよ」



抱きしめる力を少しだけ強める。大丈夫だ、大丈夫だよ。そう言い聞かせかせると小さく「母さんっ」そう、聞こえた気がした。



泣き出しそうな程、その声は震えていて、聞き返すに聞き返せなかった。でも確かに今、お母さんの事を呼んだ気がする。



視線を上げれば隼人くんがあたしにジっと視線を落とし自分の失態にでも気付いたような罰の悪い表情を浮かべてる。