まるでそこにあたしが居ないとでも言うくらい、呆気なくするりと。
それに続くようにして一度だけ互いに顔を見合わせた残りの皆も黙ってあたしの脇を通り抜けていく。するりするり、リーダーに従うようにして。
ちょっと待て。何だこの態度。お姉さんちょっとカチンとくるぞ。だってせっかく覚悟を決めたのに空回りなんて馬鹿みたいじゃないか。
それに、それにだ、優がそんな冷たい表情似合わない。
冷たい表情もだけど、あたしが教えてくれと言った時、ふいに見せた優の表情はあたしが居なくなるんじゃないか…そんな不安そうな表情にも見えた。
勝手な憶測だけど、自分の話をした時にあたしが怖くなって消えるんじゃないか、そう思ったんだったらそれはそれで頭にくるぞ。
去りゆく皆の方へと体を向ける。下げていた傘をいそいそと閉じ、折りたたんでから優の背中めがけて振りかぶる。ピッチャー振りかぶって、投げる!!!―――――――バシッ!
背中に当たった傘の痛みに優の歩みがはたと止まった。肩ごしにジロリ、こっちを睨めつけた優にもうちっとも怯まなかった。馬鹿野郎め!大馬鹿野郎めと急いで優の前に立ちふさがった。
逃すまいと優の服を両手で掴み引き寄せる。ぐっと顔が近づいた事で、さすがに優の怒っていた表情が崩れた。
「何びびってんだ。あたしがいなくなるのが怖いのか!自分達の事知られて消えちゃうんじゃないかって不安なの?バカだ!大馬鹿でドあほだ!」
「ちょっ、愛理ちゃっ」
「あたしがせっかく覚悟決めたのに台無しだ!優があたしの覚悟台無しにしたんだ!あたしは逃げない、絶対に。今更逃げる女に見えるのか。なら約束しようか。指切りげんまんでもしようか。絶対裏切らない約束をしたら気が済むのか!」
「……っ」
「良いか良く聞け!あたしはそんなに弱い女じゃない、だからちゃんと話して欲しい。あの家で本当はずっと気を使ってた、知らない話だから入っちゃいけないかと思って。でも思ったら…もっと早く言えば良かったんだ。話して欲しいって」
うわああああ、もう!!腹立つ。自分にも優にも。怒りをぶつけるようにして掴んでいた優の服をグラングラン大きく揺さぶってやる。
激しく揺さぶられる優に慌てたように隼人くんと翼が「愛愛落ち着けって!」「お前やめろっつの!!」止めに入ったが止まらない、止まれない。