「すみません、聞こえました」


「バレバレの嘘ついてんじゃねえよ」


「その通りですね…」



だって空気が重たくて、「うん」そう言えない空気だったから言いにくくて。



でもそうだな、たまたま偶然出くわした現場だったけどここまできたらもう後戻りは出来ないんじゃないだろうか。こんな会話を聞いて、こんな場所を見てしまって何も知らない振りはもう出来ない。



空が言っていた本当の覚悟を決める時がきたみたいだ。



あたしは持っていた傘をゆっくりと下ろして顔を上げる。言わなければいけない。待っていようと思ってた、優が話してくれるまで、でも自分から聞かなければいけなかったのかもしれない。



「優…ちゃんと話して」



あたしは決意を固めて強い眼差しで優を見つめる。優は少し驚いたような表情をしてからすぐに視線をそっと真下に下ろし口を結んだ。何かを思い出しているような、哀しいような、そんな表情。



「ねえ、優。」



下げた顔を上げてもらえるようにともう一度呼びかけた。優が顔をそっと上げる。けれど開いた口から出た言葉に言葉を飲む結果になった。




「今日遅くなるって言うてたやろ?わざわざ後でも着いて来てたん?」



聞いたこともないような冷たい声だ。さっきの男の人達に話しかけていた声と同じ。



「こんな場所に居たらあかんやろ。さっさと帰れ。」


「でも…」


「俺はまだやる事が残ってる。愛理ちゃんに言う事は何も無い」


「だって」




押し黙らせるような冷たい視線を向けられる。言葉を飲むようにして黙ったあたしの方へと優が歩み寄ってくる。



何かを告げられるのかと身構えたら拍子抜けなくらい何の言葉も無く、横をするりと通り過ぎて行った。