「誰の指図で動いとるん?俺に教えて?」
優に渡そうと思っていた傘を落としそうになり慌てて掴みなおした。きつく掴み直したあたしの耳朶にハッキリと声が届く。
「し、知らないんだ!俺らはただ北原高校を襲えって携帯に連絡が入るだけだから!」
「知らねえわけねえだろ!じゃあ何か?リーダーも知らねえのにその連絡のみに従ってんのかよてめえらは」
「そりゃーおかしい話だよなあ」
ハっとする、双子の声も聞こえてきたぞ。
様子を窺おうかどうしようか、悩んでいた所に骨を打つような鈍い音が響き渡った。あまりに酷い音だったため肩が大きく上がる。折れるような音がしたのは気のせいか。
その音の後、不自然な程暫く何の音も聞こえなくなった。けれど静寂を破るようにして続いた声は空のもので。
「はあー、面倒だねえ本当に。俺なら誰が自分のリーダーかも分からずに動くなんて絶対嫌だけどな」
「俺もだよ。でもこれじゃ本当に埓があかねえよな。いい加減上の奴が顔見せてくれねえと終わらねえよ」
空の声に続いたのは隼人くんの声。あの明るく可愛らしい隼人くんが張り詰めるその空気の中居る事自体が不自然に思えた。けれどその声もやっぱりいつもの声とは違い、低くやけに冷静な声色。
「下の奴に聞くのも限界があるな。だからってどうしようもねえけど、慎(しん)には知らせてあんのかよ?」
「慎には連絡してある。やけど向こうも調べてる最中やから何とも言えんって言うてた。あいつ頭だけはええからな」
「だよな、慎も何か考えてるのかもしれねえし」
「だからって黙って待ってんのか?また仲間がやられたんだぞ」
「まあまあ落ち着きなさいよー。何度も言うけど、だからって動きようがねえんだ。」
「慎とはまた話しに行くわ。やけどほんまにセコイ事しかせえへん奴らやな。待ち伏せして大勢で襲いかかってくる」
「ああ。だけど相手は武器もって背後から襲ってきたりするみてえだし、1人を袋叩きする事もあるらしいから悪知恵だけは働くみてえだな。」
「そうだなあ、休みの日くらい勘弁してほしいけどね。今ゴールデンウィーンだぞ?せっかくの女との予定をキャンセルしてまで喧嘩って」
「そーちんはたまにはその方がいいよ…女なんて何がいいんだよ。裏切るし、意味分かんねえし。」
「お姉さんだって女だろ」
「愛愛は別だってば!」
はーあ、それぞれの嘆息が混じりながらも路地裏からぞろぞろと複数の足音が近づいてきた。どうやら話は終わったらしい。