やけに低い声、何かに怒っているようなその声に緊張感が増していく。
もう一歩、奥へと足を進めていく、と靴底でぐにゃりとした何かを踏んだ。
「わっ!」
驚いて後ろに飛びのき、傘を前につき出す。何だ今の物体は!!
傘を盾にしながらも顔だけをコソコソと覗かせて確認をして驚いた。暗闇に慣れた瞳に映ったのは路地裏に倒れている数人の人だった。
濃い色の水たまりがチラチラと映る。どうやらそれは血のようで、今更ながら何となく血なまぐささを感じた。
何だ…これ。
「―――っ」
倒れる人、奥から聞こえる怒声、――――――まさか喧嘩の最中だった?声は聞こえるけどまだトシの姿は見えない。
奥の方に目を凝らせば右に一つだけ、道がつながっていた。その先の様子まではここから見えない。薄暗い中から聞こえる怒声はどうやらその奥からのものらしい。
何となく見てはいけない気がする。
少し考えてから戻ろうと思い元来た道に体を反転させたと同時だった。
「俺かて、こんな事したないんやで?面倒やし。やけど俺の仲間が傷つけられるのは黙って見れられんから」
聞き慣れた声が聞こえてきて足を止めた。優の声だ。
振り返るようにして見てもそこには優の姿は無い。聞こえてくるのはやっぱり奥の道からだ。「愛理ちゃん」そう呼ぶあの優しい声では無かった。低く冷徹なその声に心臓がドキリとした。
思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまう。