あたしの心でも読み取ったように。
「愛ちゃん傘もう一本持って行きなさい」
お母さんがあたしを玄関へと促しながらもそう言ってくる。何故だろう、お母さんにそう言われると物凄く恥ずかしいぞ。さっきの一件があるからか。
お母さんはあたしが持ってきた傘ともう一本、ビニール傘を握り手渡してきた。
「お母さんあたし傘持ってるよ?」
気恥ずかしさ故、分かってはいたけど聞いてみるとお母さんは口元を緩めながらも強引にあたしにその傘を押し付けてくる。
「お知り合いさんに会ったら渡してあげなさい」
お母さん、やはりお見通しなんですね。女の勘て本当すごいよね。
「ありがとう…」
「またいつでも来なさい」
「…うん。またね」
ばいばいじゃなくて、またねと言ったのはまた来てもいい?そう含んだ言葉にしたかったからだ。あたしはこんなに素直じゃない娘だったかな。もっと簡単に「ねえまた来てもいい?」そう言えればいいのに。
けれどあたしの言葉に数秒顔を見合わせたお母さんとお父さんは。
「「またおいで」」
笑顔でそう言ってくれた。不安も何もかも打ち消してくれる明るい笑顔で。
「うん、また来るね」
見送ってくれる二人に片手を上げた。満面の笑顔で送り出してくれる両親にあたしも笑顔で告げる。
玄関のドアが少しだけ重たく感じた。後ろ髪を引かれる思いだったのは、もしかしたらもう少し、まだここに残りたい自分が居たからかもしれない。
それを振り払うように外へと出れば真っ暗な世界が広がっている。雨の降りも窓から見た時より増した気がした。
「雨凄いなあ…」
優に連絡しようか…いや…うん止めよう。きっと連絡しても返ってこない。きっと電話には出ない。むしろ忙しい時に邪魔をするのは申し訳ない。もし偶然家に帰る時に会えたならこの傘を渡そう。
バサリ、降りしきり雨の下、勢いよく傘を開きあたしは優の家へと少しだけ急いで歩き出した。