弾かれるようにして着替え、優が先にもしも帰ってきたら困るため【実家に行ってくる】とメモ用紙だけは残して久々の我が家へとやってきた。
本当に懐かしい。自分の部屋も前と全く何も変わっていないし、1年も家に帰っていなかったわけじゃないのに懐かしい。
「愛ちゃん、今日またお知り合いさんの家に行くんでしょ?」
家の中の懐かしさに浸るあたしをクスクスと笑いながらも台所のドアから顔を出したお母さんが問いかけてくる。
「うん。あたしが行かないとご飯もろくに作れないと思うし」
いや本当、優さん今までどうやって過ごしてきたんだろうってくらい色々分からない事がありすぎて驚く。料理はそれなりに出来るみたいだけど、「これどこに入れるんやっけ?」柔軟剤を手に持ちながら不思議がっていた事もある。
たぶん何となくでやってきたんだと思う。何となく、上手くいっていた、そんな感じだ。
お母さんは暫くあたしをジーと見続けると、ふいにポンと片手を手の平に落とし。
「彼氏?」
楽しそうにそう言った。
―――か、れ、し。
「ち、違う!」
「あらー顔真っ赤。彼氏じゃないの?」
「ちちちち違うよ!」
「その慌てっぷりが怪しい。彼氏ならちゃんとお父さんに紹介しなきゃダメだよ」
「違うってば!お母さんほら、ご飯作るんでしょ!」
「そんなに動揺すると逆に怪しい」
「いやいやいやいや」
優が彼氏?それは絶対に無い。そもそもだ、想像してみよう、あたしが優の隣に立ちます。見てほら全然釣り合わない。言うなればあれよ、月とすっぽんくらい釣り合わない。
優しいし笑顔も眩しい、だからそんな彼氏だなんて、そんなそんな、色々と考えていたら頭が痛くなってきた。
そもそも考える時間すら無駄だった。優はあたしを好きじゃない。そういう目で見てない。だから一緒に住んでくれてる、んだと思う。たぶん…。
顎に手を添え真剣に考えていたあたしを見て、お母さんがまたクスクスと笑ってる。いったい誰のせいで悩む事になったと思ってるんだ。
軽く一瞥だけを冗談っぽく向けて、すぐにエプロンを棚から引っ張り出し腰へと巻いた。