「じゃあどうして?」
「え?」
「篠原さんの告白に返事しないの?」
「は?」
やしなが何を言ってるのかわかんない。
「保留にしたんでしょ?告白されたの昨日の夕飯のときだよね?てことはあたしと別れる前だよね?」
ゆっくりとぽつりぽつりとやしなが話す。
「…何言ってんの?」
「保留にされてるって言ってたもん!」
やしなの目に涙が溜まってるのがわかる。
また俺が泣かせてるの?
「俺、行くところあるわ」
やしなに背を向けてはしる。
あ、携帯。
LINEの画面を出して、ホテルのロビーに呼び出す。
「丈くーん」
語尾に♡でもついてるような
甘い声ですぐに篠原が歩いてくる。
「俺さ、断らなかったっけ?」
「え?」
俺の言葉の意味がわからんてキョトンとした顔になる。
「なんで、保留にしたことになってんの?」
篠原の顔を上から見下ろす。
「あ…」
篠原の顔色が変わる。
「もう別れたんじゃ…」
「別れたけどさ、保留なんてしてないよね?」
俺の質問にこくんと首を縦にふる。
「なんで嘘つくの?」
「悔しくて…」
「は?」
「丈くんのこと小学生からずっと好きだったのに、中二から一緒になったような子にとられるのが悔しかった」
篠原がその場に座り込む。
もう、こいつに告白とかしても意味無いって
分からせなきゃならない。
最近近くに行き過ぎちまったかな。
ずっと避けてたのに
「長さとか関係なくね?」
「…そう、かな」
「だって、俺どんだけ長く好きでいられたって、篠原のこと好きにならねーよ?」
俺の言葉に唇を噛む。
「だって、悔しいじゃん。こっちは何回も何回も告白してんのに、なんでやしなちゃんなの?」
「そんな理屈なんてないだろ。好きなもんは好きなんだから」
俺はこいつじゃない。
やしなと一緒にいたいんだ。
「次、やしなを傷つけるような嘘ついたらただじゃおかねーから」
座り込んでる篠原に背を向ける。
慰めるのもおかしいし。
もうやしなに勘違いなんてされたくないし。
また付き合えるのはいつになるかわかんない。
でも、そのときは。
俺から言いたい。
「あ、もういるね」
玄関の靴を見て、光が言う。
「あーほんとだ」
あたしたちも靴を脱いで部屋に入る。
今日はすっごく嫌だけど。
篠原さんと同じ部屋。
「紗奈、最近丈くんといい感じじゃーん」
部屋の中からそんな声が聞こえる。
「えへへ。そうかなぁ?」
なんて篠原さんも照れたように発する。
「やしなちゃんとも別れたらしいし。ね?」
中から聞こえる言葉はあたしの心に重くのしかかるもので。
「あいつらうちらいるのわかって言ってる」
光がバンっとドアを開ける。
「あ、いたんだ?」
篠原さんがわざとらしく微笑む。
なんでなんだろう。
よりにもよって同じ部屋なの。
「告白、しないの?」
彼女たちの話はまだ止まらないらしい。
「昨日したの」
「え!?返事は?」
「いまはまだできないって」
篠原さんがあたしをちらっと見る。
…え?
保留ってこと?
「それ、脈ありじゃん!」
「そうかなぁ?」
「だっていつも断るなら即断られてるじゃん!」
彼女の友達の萱場さんの言葉に
神谷くんの言葉を思い出す。
『何度も告白してる』
そう言われてたっけ。
「やっぱり?あたしもそう思うんだ!」
篠原さんの言葉にもう思考が追いつかなかった。
だって、そうでしょ?
告白されてたのは昨日の夕飯のとき。
あたしたちまだ別れてないじゃん。
「あたし、ちょっと!」
それだけ言って部屋を出た。
さすがにそのままあの部屋にいれるような
そんな強靭な心ではなかった。
「あれ?やしなちゃん?」
走っていたら、部屋から出てきた人に声をかけられる。
「…神谷くん」
どうやらここは神谷くんの部屋だったらしい。
「やしなちゃん、泣いてる」
神谷くんがあたしの前に歩いてくる。
「あれ、いつの間に」
自分でも泣いてることにきづかなかった。
「泣くなよ」
神谷くんが自分の胸にあたしを抱き寄せる。
「ちょ、神谷くん!?」
「泣くなよ。言ったじゃん、幸せにならないなら奪うって」
「まって、離して」
神谷くんの腕のなかから逃れようとするけど
男の子の力には叶わない。
「何やってんの」
後ろからすんごい知ってる声が聞こえた。
「…丈」
いつもよりとてもとてもひくいその声に
ちょっと緩んだ神谷くんの腕から抜け出して
彼を吹っ飛ばす。
すごい勢いで吹っ飛ばしてしまったようだ。
「すげぇ」
神谷くんが飛んでった方向を見て丈がボソッと言う
そう言ったかと思えば今度は
「抱き合うなら別の場所にしたら?俺の部屋の前とか悪趣味だろ」
あたしに向き直って冷たく言い放つ。
勘違いされてることに気付く。
何も言えないあたしに背を向けて
丈が歩き出す。
このまま勘違いされたままじゃダメだ。
こんなの、よくない。
諦めない。
そう言ってくれた丈に失礼で。
でも、篠原さんの告白は断ってなくて。
わけがわからなかった。
「待って!ちがうの!」
丈のところまで走って、服の裾をつかむ。
「気にしなくていいよ。俺ら別れたんだから」
「そうだけど!」
納得ができなかった。
「でもいちゃつくのはえーな」
目が笑ってない。
感情がない目をして笑ってる。
「違うの!」
「違わねぇだろ!」
丈の出した大声にあたしはびくっとなる。
「おまえ、モリーとか虎ともイチャイチャしてんじゃん」
「は?」
「だってそうじゃん」
わけのわからない言い草に
イライラが募る。
誰にでもいい顔をしてるくせに。
なんでこんなふうにあたしが言われるの。
すきだけど、どうしてもダメで。
自分から手を離した。
でも、好きなんだよ?
「それは丈でしょ!?」
気づいたらいつもよりも大きな声が出てた。
「責任転嫁するなよ」
丈の冷たい言葉が降ってくる。
「じゃあどうして?」
「え?」
「篠原さんの告白に返事しないの?」
「は?」
あたしの言葉に怪訝な顔になる。
「保留にしたんでしょ?告白されたの昨日の夕飯のときだよね?てことはあたしと別れる前だよね?」
あたしの言葉に丈の目が大きく見開く。
「何、いってるの?」
「保留にされてるって言ってたもん!」
「俺、行くとこあるわ」
一言それだけ言って走り出す。
あたしの問いに対する答えはなかった。
認めたってことなんだろうか
どこに行くんだろ。
篠原さんにしてなかった返事でもしにいくんだろうか。