「帰ろうぜ」


「丈くん!」


篠原の顔はここまで喜ばなくてもいんじゃないかってぐらい嬉しそうで。


俺、今まで1度だって
やしなをここまでの笑顔にしたことがあったかな。


付き合ってからも傷つけてばかりだし。


「あ」


教室を出ようとすると神谷がはいってくる。


「お前ら一緒に帰んの?」


神谷が俺らふたりを交互にみる。


「うん」

「お前どーいう…」

「行こ!丈くん!」


神谷が俺になにか言おうとしたが、
篠原が俺の腕を掴んであるきだす。


「あ、あぁ」


篠原について俺も歩く。


ちらっと教室を見てみれば


やしなに話しかけている
神谷が見える。


俺ももっと今日話したかった。

「修学旅行楽しみだね丈くん」


ニコニコしながら篠原が話しかけてくる。


「だなー」


俺は適当に相槌を打つことしかできない。


ほんっとに楽しいと思えない。

篠原が悪いわけじゃない。
俺がやしなじゃないとダメなんだよな。

わかってるのに
なんで篠原を誘ってしまうのかじぶんでも
全然わかんねぇ。

自分で自分がほんと嫌になるんだ。

やしなのことが好きなのに。
ひねくれた性格は
なかなか自分を素直にさせてくれない。


「篠原さ、俺といても楽しくなくない?」


自分から初めて篠原に話題をふる。


「なんで?あたし、丈くんとこうして歩けるだけで嬉しいもん」


頬を赤らめて話す。


こっちが照れるっちゅーの。


「あんまそういうこと言うな」

「どうして?」


篠原が首をかしげる。


「俺、なにも応えてやれねぇから」

「でも、なんで急にこうして帰ってくれるの?」

「むしゃくしゃしてるから」


俺は川に石ころを投げる。


「竜二のせい?」

「まぁ、な」


神谷さえいなければ
こんなふうにはなってない。


「丈くんとこうできるなら竜二に感謝だな」


篠原が笑う。


「冗談じゃねぇよ」


あいつ、前は篠原のことが好きだったのに


「竜二がやしなちゃんを好きになったほうが丈くんより前なのに」

「は?」

「1年のときだもん」


…まじかよ。


「別に年数が勝つわけじゃねぇよ」


俺はそのまま家に入る。


むしゃくしゃが止まんねぇ。


「おはよー。やしな!」


集合場所に行くと、すでにきていたのは光。

こういうときは、行動早いんだから。


「丈くんと、篠原さん。また一緒にきてるよ」

「…え」


光の見る方向に目をやる。

そこには楽しそうに話をしながら
歩いてくる丈と篠原さんの姿があった。


「どうでもいい!」

「え?やしな?」


予想外の反応に光が驚く。


「なるようにしかならないし!あっちがあの態度ならこっちだって。こっちの班の男子と仲良くする」

「そうだね!やしなえらーい」


光があたしの頭を撫でる。

そう。
楽しまなきゃ損しちゃうんだから。

丈があれだけ言ってた。
神谷くんとだって仲良くするんだから。

だから。
あっちがそういうなら。
こっちだって。


「おはよー。うちの班は、全員いるね!」


神谷くんがあたしの肩にぽんっと手を置く。


「うん!おはよー」

「全員いるし、先生に言ってくるわ」


神谷くんが前に歩いて行く。


全員そろったら班長が先生に報告しにいくんだ。


「あ。おはよ!」


虎とモリーが通りかかる。


「おはよー!」


「よかった。元気そうだな」


虎が安心したように言う。


「ほんとよかった」


モリーもホッとしてる。


虎とモリーはほんっと心配性。

でも、そんなふたりにいっつも助けられてるんだけどね。


「早くこいよ!オマエらこないから点呼できねぇじゃん!」


丈が、虎とモリーを呼びにくる。


「あ。ごめん。ごめん」


ふたりが丈の言葉に前にあるく。


いいな。
丈と一緒で。

「おはよ」


丈があたしに微笑む。


「お、おはよ」


どもっちゃった。

まさか、声かけてもらえるなんて思ってなかったから。



「なにどもってんだよ」


丈が笑う。


「いや、朝だから」


わけわかんない言い訳に自分で恥ずかしくなる。


「楽しもうな」


丈があたしの頭をぽんっと叩く。


「うん」


こんなちっぽけなことでうれしいなんて。
ほんと、片思いみたい。


今はあたしのほうが好きな気持ち多いよね。
だから、片思い。

今はって言うかいつまでもの方が正しいかな。


「なんだ結構普通じゃん」


丈がいなくなったのを見計らって、神谷くんが声をかけてくる。


「うん。嬉しかった」

「よかったじゃん。楽しくなるといいな」


......................................................


━━コンッ


何かで後ろから、頭を突付かれた。


「いたーい」


あたしは後ろを振り向く。

そこには大好きな丈がいた。


「丈…」

「俺らここだから」


丈は笑顔で言う。

よかった。
ほんとにいつもの丈じゃん。

何も心配はいらないじゃん。


たのしい修学旅行になる気がする。


と思ったのも束の間だった。


「丈くん!これ食べない?」


丈に話しかける女子の声。


「食べる食べる!」


え?

あたしが少し立って見ると。
丈の隣には篠原さんがいた。

なんで?
篠原さんをそこに座らせるなら。
なんであたしの近くにくるの?
見せつけ。

最悪。
せっかくの楽しい、気分をぶち壊された。


「あたし!移動する!」


そう言って席を立つ。


「やしな!?」


光の声にふりむこうとしたけど
丈と篠原さんが見えそうで。

振り向かずにあるいた。


「隣座っていい?」

あたしが行った先は
神谷くんの隣。


「え?マジ?いいよいいよ!どーぞ」


神谷くんが椅子をポンポンっと叩く。

篠原さんだって丈のことが好きだし。
あたしのこと好きな人の隣に行くべきだ。

本当はこんなこと
神谷くんにも悪いって分かってる。

でも、さすがにきついから。


「隣空けといてよかったー」


なんてニコニコしながらお菓子をたべてる。


なんでこの人は。
こんなあたしのどこがいいんだろうか。

本当にわからない。



「ところでなんでここにきたの?」


神谷くんがあたしの顔をのぞき込む。、


「篠原さんがいたから。あそこにはいたくなかったの」

「そっか。丈、今日も紗奈と来てたもんな」

「ねー」


あたしは笑顔でそう言った。


「無理するなよ」


神谷くんがあたしの頭を叩く。


「いたっ」

「まぁ、いざとなったらやしなは俺がもらうけど」

「なに言ってんの」


こんなこと言われたら。
惹かれちゃうよ。

特にこんな状態の時は。


「やしな、ちょっといい?」


虎があたしの横にくる。


「うん。いいよ」

「ちょっと来て」


虎が歩き出す。


「ちょっといってくるね」


あたしも虎について歩く。