わたしは意識不明の重体だと言うけど、ここにいる実感がある。
寒さも感じるし身体も動く。
それに、裁判長だとか言っているこの男、まるで神社の神主さんみたいな白い服を着ている。
わたしより歳が上だということは見てとれるけど、お父さんよりは若いのかまではわからない。
とにかく、見るからに怪しいと思った。
「なにを突っ立ているんだ。こっちに来い。時間を無駄にするな」
男は顎をしゃくる。
わたしは渋々男のあとをついていくと、長い机を挟んで男の前に座った。
「ここは生と死をさまよっている者の裁判を行う」
「わたしの裁判をするの? なんで? まだ死んでもいないのに?」
「お前なぁ。人の話は最後まで聞けと教わらなかったのか?」
わたしの名前が書いてある書類を乱暴に投げ出した。
偉そうな裁判長だな。
「今、お前の魂がここにある状態だ。身体は現世にある。つまり病院のベッドにあるということだ」
「は? 幽体離脱ってやつ? ありえないでしょ」
わたしは笑った。
身体のなかから魂だけ出てくるなんて、それじゃあ漫画の世界の話だ。
バカげてる。
「きゃっ……!」
男は突然わたしの手首を掴んで立ち上がると、部屋の奥へぐんぐん進んでいく。
驚くほど氷のように冷たい手だった。