「てか、そもそも命を裁判にかける方が間違ってるでしょ」

 凛子の家に向かう途中、鬼丸の顔を思い出して悪態ついたその時、

 「お前が言えることじゃないだろう?」

 えっ?

 鬼丸のしゃがれた声が頭の中に響いた。

 「嘘でしょう……」

 ぞくり、とわたしは肩を震わせる。

 鬼丸の長い髪や血が通っていない白い肌が目に浮かぶ。

 
 「嘘じゃないぞ。まぁ、俺の声はお前にしか聞こえないがな」

 わたしにしか?

 辺りをキョロキョロ見回したけれど、近所のおばさんが水撒きをしていた。なんにも聞こえていないみたいに。


 でも、鬼丸の姿はどこにもない。

 「ど、どこなの? 鬼丸」

 「裁判所に決まっているだろう。バカか。それより夏希、よく聞け。俺はお前のことをいつでも見ている。まだ時間があると余裕をかましているんじゃないぞ」

 
 見上げた青い空に鬼丸の鋭い目が写し出された気がした。