ーーー夏希!

 最後に聞いたのはわたしを呼ぶ奏多の叫び声。

 視界のなかで奏多の姿が浮かび上がり、すぐに歪んで消えた。


 「じゃあ、なんでわたしはここにいるの……」


 恐る恐る発した声が震えていた。

 奏多の声がまだ脳裏に響いているような気さえする。


 「ここに来た奴等はみんな同じことを言うな」

 男は大きな溜め息をついてめんどくさそうに頭を掻いた。

 ここに来た奴等、わたし以外にもいるのだろうか。


 「よく聞け。ここは、“生と死の裁判所”だ」

 男の刺すような眼差しを向けられた。


 『生と死の裁判所』と、声には出さず口の中で繰り返した。

 
 「なにその裁判所……わたし、事故に遭ったんでしょ? 意味がわからないよ」

 普通は病院にいるもんでしょう?

 そもそもそんな裁判所なんて存在するのか。

 
 「お前のように生と死をさまよってる者が来る場所だ。これから説明するんだから、黙って聞いておくんだな」


 ピシャリとわたしを制した。にわかには信じられない。