「中学最後の試合、陸カッコよかったよな。逆転勝ち。すごかった」

 奏多が静かに口を開いた。陸に語るように。

 「それがなんだよ……」

 奏多は淡く微笑む。

 「サッカー、好きなら続けろよ」

 陸がゆっくりとこっちへ向いた。

 口を引き結び、痛みに耐えるような陸の瞳を奏多は真っ直ぐに見ていた。

 「好きだって気持ちは誤魔化せないだろ?」

 陸の瞳が大きく開かれる。

 陸がハッと息を呑んだ瞬間、わたしは陸の本当の気持ちがどこに向いてるかわかった気がした。


 きっと奏多は、それに気づいていたのだろう。

 わたしよりもずっと早く。

 「元からサッカーは中学までって約束だったんだよ。高校に入ったら、大学受験のために勉強に専念するって……親父と」

 陸のお父さん。

 子供の頃、陸がぐちぐちと文句を言っていたことがある。卒業文集の期限が迫っていた時期だったと思う。

 サッカー選手なんて選手生命も短いし、そもそもプロになれる人間なんか一握りもいない、と陸は父親に言われたのだと話していた。


 そのとき陸は、

 『俺は父さんみたいになりたくねぇんだ。夢も見れない父さんみたいには』

 夢を叶えることと、夢を見ることは全然違うのかもしれないとわたしは思った。