「辞めた奴がサッカーしてたらいけないのかよ?」

 さっきよりも険しさを増した陸の顔にわたしは口を結んだ。つり目がちな瞳は絶え間なくこちらを睨んでいる。

 「ただの暇潰しだ。こんなの。退屈だからやってんだよ」

 ドンッ、と思いきりボールを蹴っ飛ばす。


 ーーー退屈だから


 サッカーに情熱を注いだ陸の口からそんな言葉が出てくるなんて、わたしは心底驚いた。

 けど、陸の声が強がっているように聞こえた。

 わたしなら、退屈だからってサッカーをしない。退屈でも、こんな炎天下のなか外に出ようとさえ思わない。少しも。
 
 暇潰しだなんて嘘だ。

 長い時間、陽に当たり続けたキシキシの髪が、それを嘘だと証明している。

  
 『好きなことを好きなだけやりたい』

 夢を追いかける陸。

 わたしはそんな陸が羨ましかったのかもしれない。

 だから、逃げてると言われた陸になにも言い返せなかったのだろう。

 ふとそう思い陸を見る。

 動かなくなったボールを陸は黙って見つめていた。