「俺にとっては最高なんだよ。最後まで付き合ってくれよな。途中で抜けるのなしだぞ」

 よくわからないけど、子供みたいな台詞にわたしは苦笑いした。

 「それで、今日はどの予定?」

 「これ」

 奏多が迷わず指を差したのは、

 『陸の本音を聞き出す』だった。


 「これがやりたいことって……なに、陸と喧嘩でもしたの?」

 「まさか。ただ聞きたいことがあるんだよ」

 それならわたし抜きでもいいと思うけど。本音は口にしなかった。


 中田 陸は小学生のときからの友達だ。

 つり目がちな陸の目がわたしの頭に浮かんだ。

 癖のある柔らかそうな奏多の髪とは違って、陽にさらされた陸の髪はキシキシと痛んで見えた。

 それはいつも陽が暮れるまでサッカーをやっていたからかもしれない。

 『好きなことを好きだけやりたい』
 
 のびのびと、楽しそうに、陸が言っていた。

 影森町のクラブチームでも一番だった。将来はサッカー選手になると卒業文集にも書いていたのを覚えている。

 
 高校に入ってからはどういうわけか、あれだけ情熱を注いでいたサッカーをパタリと辞めた。
 
 わたしもよく一緒に遊んでいた。頭に氷だの色ののつく鬼ごっこをしてことごとく鬼にさせられた。

 足の速い陸には勝てっこない。

 おどおどして逃げる凛子のことは捕まえないクセに、わたしへの集中攻撃は容赦なかった。

 わたしを鬼にして、凛子を守るように得意気に逃げる。


 誰も捕まえられなくて泣きそうになると「あーあ、捕まっちゃった」わざとらしくそう言って笑う奏多が、わたしを助けてくれた。鬼を代わってくれた。

 
 陸のことは嫌いじゃない。

 けど正直、今陸に会うのは嫌だ。