目が覚めるとまるで深い海の底にいるようだった。

 真っ暗でとても冷たい場所にわたしはいるのだけれど、身体は鉛のように重く沈んでいきそうだ。

 気を抜けば意識を手放してしまいそうになる。

 「なんだ? お前、もう目を覚ましたのか?」

 不機嫌そうな声にわたしは意識を繋いだ。

 「めんどくさいことになったもんだ。最後の悪あがきなんぞ、迷惑だっていうのに」

 「……誰なの?」

 意外とすんなり自分の声が出た。

 わたしは闇の中を泳ぐように手で宙を割いた。

 「俺はここの裁判長だ。お前は水野夏希だな。歳は、十六か」

 その低い声と同時に、蝋燭のように小さな灯りがまばらに点いた。

 わたしは目を瞬かせ、繰り返す。

 「……裁判長?」

 なんかの本、あるいは教科書で見たことがある木槌を振り上げる裁判長の姿が浮かんだ。


 「そうだ」

 男が一歩踏み出すと冷たい風が吹き抜けて、わたしの短い髪を揺らす。
 
 男は躊躇うこともなくわたしへ距離を詰める。

 そして、その姿が露になり、わたしは固唾を呑んだ。


 背中まである漆黒の長い髪、陶器のように白い肌。

 血の通っていない唇は生きていることを感じさせない。


 「……なに、それ。あなたは、わたしのことを知ってるの?」

 「知ってるさ」

 疑問が飛び交うなか辺りを見るとそこは薄暗く、机やパイプ椅子があちこちに並んでいた。

 まるで夜の教室のような場所にいることに背中がヒヤリとした。