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 「なぁ。夏休みにやりたいことある?」

 羊ヶ丘公園を出て来た道を引き返していると唐突に奏多が聞いてきた。

 「特にないけど。課題はさっさと終わらせようかなぁ、なんてね……」

 まあ、実際のところ、本当の課題は『生きたい理由と過ちを見つけること』だけど、とは言えないもん。

 「じゃあ、俺に付き合ってよ」

 奏多が立ち止まる。

 一歩先を行ったわたしは振り返って思わず固まった。

 今まで何度も夏休みを共に過ごしてきたけれど、こんな風に言われたことは初めてだった。

 
 「夏休み、俺と過ごしてよ、ナツ」

 「……どうしたの? 改まって。毎年、ダラダラなんかしらしてるじゃん。お祭り行ったりとか、プールとか」

 
 約束なんかしなくても奏多には会えるし、どちらかが提案すればプールにも行ったし、神社にも行った。

 わたしが笑って答えても、奏多は真剣な表情を崩さない。


 思わず目を逸らした。

 奏多からもらったサイダーを一気飲みする。

 炭酸がシュワシュワと胸のなかで弾けた。