「じゃあ、もし俺がずっと帰ってこなかったら?」
「えっ。そんなことあるわけないじゃん」
「いや、もしもだって。絶対寂しいだろ?」
奏多がイタズラな瞳をしてわたしを見る。
ぐんと奏多の顔が近くなって、
「ぜーんぜん! ずっと一緒にいたし、少しくらい離れたって平気だから」
わたしは声を大きくした。
うん。全然平気。毎日会えるし。
中学の頃は付き合ってるんじゃないかという噂が流れたくらいだ。
もちろん否定したけれど正直なところ嫌な気はしなかった。くすぐったい気持ちではあったけど。
その感情の名前を、わたしはよく知らないのだと思う。
もしも、わたしと奏多が恋人という関係になったら、なにかが変わりそうだ。
全く想像もつかないけど、わたしはそれを考えると少し怖かった。
変わらないでいられるならこのままでいい。
「おいおい。即答かよ。少しは考えるふりとかしてから答えろよな」
奏多がケラケラと笑う。
さっきよりもはっきりと笑窪が浮かんだ。
「だって、どうせ明日も会えるじゃん。家も近いし、夏休みだし?」
わたしが言い切ったところで奏多が紙袋をくしゃりと丸めて立ち上がった。
奏多を見上げると陽射しを浴びて視界が白く染まる。
よく顔が見えない。