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太陽が高い位置にある。走ってすぐ額に汗が滲みだした。
生きてるからだろうと、ふと思った。
もし鬼丸に生きる必要がないと判断されたら、こんな風に外を走ることも出来ないのか。と言っても、今が過去なんて実感はまだ涌いてこないな。
もうすぐ奏多の家が見えてくる。
途中、鬼のように怖いトキさんというおばあちゃんのいる御門屋から、あんこの香りがした。
トキさんには会いたくないから、わたしは自然とさっきよりも速く走る。
影森の町で奏多とわたしは兄妹同然のように育った。
ときに幼なじみのように。
そして、家族のように。
巡りゆく季節に同じ数だけ足跡を残した。
奏多の好きだというものは私も好きになっていった。
子供っぽいとこもあるし、負けず嫌いだから、何度も喧嘩をしたけれど、隣にいるのが当たり前だった。
母さんが死んだときもわたしの隣には奏多がいてくれた。
「ナツ」と、わたしを呼んでくれる優しい声がとても好きだった。