「ああ、怖いね。でも、大丈夫だよ」

 隣町で起きたことなんだし。

 「そうか。まぁ、せっかくの夏休みなんだ。家にいるのはもったいないかもな」

 確かに昼まで寝てるのはもったいないくらいのいい天気だ。

 けど、この影森にはデパートもカラオケもおしゃれなカフェもない。あるのは喫茶店だけ。

 それも、コーヒーと一緒についてくるミルクの小さな入れ物が、ステンレス製のピッチャーっていう昔ながらの。


 華の女子高生のわたしが行くとしたら、奏多の家か、行けば知り合いが誰かしらいる七草神社くらいだろう。


 「お父さんは休憩? お疲れさま」

 「ああ。昼飯はトモちゃんのとこで済ませた。着替えに来ただけだから、またすぐ向かうよ」

 トモちゃんとはこの町唯一の喫茶店の店主。
 
 「そうだ。これ」

 お父さんが袋から取り出したタッパーをテーブルの上に置いた。

 「トモちゃんが夏希に食べさせてって言ってな」

 「わ。嬉しい。トモちゃんのカレー美味しいから好きなんだよね。今度お礼言いに行かなきゃ」

 看板メニューのカレーは珈琲とセットで千円もとるけど絶品だ。

 お腹がグーと鳴る。

 「そうだ。奏多くんにもお礼するんだぞ。ほら、それ」

 と、今度はピンクの包み紙を指さした。