そっか。もう、九月なんだね。
病室の窓を見る。
カーテンがゆらゆら揺れている。
少し開いた窓から風が流れ込んでくる。
微かに秋の匂いがした。
チリン、と。
心地好い音が病室のなかに響く。
その優しい音色のする方へゆっくりと目線を上げる。
「これ、父さんが持ってきたんだぞ。きっと、夏希は目を覚ますだろうと思ってね」
ひまわりの模様の風鈴がぶらさがっていた。
「奏多は……」
わたしがぼんやりと口にするとお父さんが眉を下げて笑った。
お父さんはなにか言いかけたけれど、なにも言わなかった。
わたしを見つめて葛藤しているようにも見える。
「奏多、元気かな……」
わたしが呟くと、頷いたお父さんの涙が頬を伝い口に入る。
わたしは知っている。
奏多はもうこの町にいないということを。