「お父さん、お父さん!」
いてもたってもいられずに、転がるように階段を降りると居間のドアを勢いよく開けた。
「なんだぁ? 慌てて」
テレビを見ていたお父さんのビックリした顔と目が合った。
かりん糖みたいに日焼けをしたお父さんは、配達の仕事から帰ってきたのか、真ん丸な頬っぺたが汗でてかてかと光っていた。
「ああ……よかった。お父さんだ……」
涙ぐむわたしに首を傾げる。
「んぅ? どうしたんだ?」
自分でもおかしなことを言っているとわかっていた。
だけど、お父さんの顔を見たら安心して涙が出そうになる。
「朝起こそうと思ったんだけど夏休みだし、声かけなかったんだよ」
そっか。わたしは昼過ぎまで寝てたんだ。
「昨日もずっと昼まで寝てただろう?」
「え? うん。ごめんね」
そうだ。夏休みで学校はないし、早起きしなくていいやって、ダラダラしていたっけ。
ついでに口うるさい母さんもいないのだからって思っていた。
過去の自分がその日なにをしていたか、意外とすんなり思い出せないものだ。
しかも、わたしのように特にこれといったこともなく過ごしていたのなら、なおさら。