「そうやって間違えてもいいんだ。生きる理由がわからなくて、傷つきたくなくて、逃げたっていいんだよ。くじけても、転んでもいい。弱い自分に負けても次に立ち上がればいいんだよ」


 鬼丸の声は風のない海のように穏やかな声だった。


 「だから、助けてほしいときは、助けてって叫べばいい。苦しいなら苦しいよって、泣いていいんだ……」
  

 鬼丸の顔が悲しく歪んだ。

 どうしてかな。

 わたしには、やっぱり、その表情がトキさんと重なって見えたんだ。


 「大切なことは自分自身と向き合うことだ。この先も、忘れるんじゃないぞ」

 「この、先……?」

 鬼丸の手が離れる。

 鼓動が内側から生命の音を打ちつける。

 それをわたしが感じ取ったとき、鬼丸は言った。


 「精一杯、生きろ」

 
 力強い声だった。

 背中を押すような鬼丸の声に頬が涙を伝う。

 拭っても拭っても止まらない。


 「生きるよ」


 全身が震えて熱くなった。