「後悔は生きているうちにするもんだぞ」

 「……うん。やり残したこと、たくさんある」

 それでもわたしの心は晴れていた。温かかった。

 鬼丸はわたしの前へと歩いてくる。

 「バカもの。それを後悔と言うんだ」

 鬼丸がほんの一瞬笑みを浮かべる。

 瞬きをすれば見落としてしまうほどほんの一瞬だった。

 
 「うん。そうだね」

 自然と笑みが零れていく。

 「なにを笑っているんだ」

 鬼丸の陶器のように白い手が振り上げられる。

 ハッとして思わず目を瞑った。

 次の瞬間、その手はわたしの頭を優しく撫でる。

 とても優しく。

  
 「頑張ったな。夏希」


 まるで、母さんがそうしてくれたように。