わたしは生きる必要があるのだろうか。

 裁判はすぐに始まるのだろうか。

 わたしは現世に戻れるのだろうか。

 いや、天界と地獄、どちらに行くことになるのだろう。

 地獄は嫌だな。生きられないなら天国がいいな。
 

 きっと母さんがいるから。


 さまざまな疑問が飛び交ったけれど、心は不思議と穏やかだった。
 
 雨上がりの空みたいに。

 わたしは最初と同じように古びた巨大な扉の前に立っていた。

 手にはなぜか青いラインの入ったノートがある。

 母さんのノートだ。

 よかった。これだけは手放せない。


 「鬼丸。わたしの夏休み、終わっちゃった」

 わたしはポツリと呟いた。

 先ほどまでの痛みはもう感じない。

 薄暗いこの場所の冷たい空気がわたしの髪を揺らす。

 夏の匂いも、蒸し暑さも、蝉の声も、ここには存在しないんだと思ったらちょっと悲しい。
   
 「ああ。終わったんだ」

 鬼丸が頷けば陶器のように白い肌を長い髪がなぞる。

 「でも、八月はまだ終わってないのにね……」

 夏が恋しい。あの町が恋しい。

 「なぜだかわかるか?」

 鬼丸はわたしに問いかける。