夏希、夏希、夏希!

 懸命にわたしに呼び掛ける奏多の声が聞こえる。

 わたしの頬に手を添える。

 その手は温かいはずなのに、残念なことにわたしにはそれが感じられない。

 自分の体温が下がっていくからだろう。
 
 寒気が全身に駆け巡る。夏なのに。

 「奏多……大丈夫だよ……わたしの、夏休み、まだ残ってるんだから」

 息も絶え絶えにわたしは言う。

 心臓がとくとくと音をたてている。大丈夫。

 今日、前のように事故には遭わなかったもん。

 奏多の話をちゃんと聞いた。公園を飛び出したりしなかった。逃げなかった。

 それだけは回避しなきゃって思っていた。

 それに、鬼丸だってわたしに最後の夏休みを与えると言ったんだから。そうだよ。鬼丸は嘘をつかない。

 夏休みはまだ七日もあるじゃない。

 だから、まだ最後の夏は終わらない。

 まだ、終われないよ。


 ーーーわたしは、生きるんだから。


 たとえこの先の未来を生きることが許されなかったとしても、わたしは、今を精一杯生きる。

 懸命に言い聞かせたけれど、どこかで望みがないことをわかっていた。

 
 鬼丸が言っていた言葉が薄れ行く意識のなかで強く蘇る。

 
 『いつどこでなにが起きるかわからない。だから、時間を無駄にするな』 


 その言葉が今さら重くのしかかる。

 うん。鬼丸の言う通りだったね。

 生きていると、なにが起きるかわからない。