「ナツ……?」

 奏多の声が聞こえた気がしたけれど、わたしは動けない。

 ーーー奏多、逃げて。

 
 そう叫びたいのに声が出てこない。


 アスファルトにだらんと倒れた身体を起こそうとしても、力が入らない。

 下腹辺りが焦げたように熱くなっていき、鉄を焦がしたような匂いが鼻を刺した。

 周囲から悲鳴が上がる。


 「……通り魔だ! 誰か倒れてるぞ!」

 男がわたしの視界から消えていく。

 血相を変えて逃げていく。

 夜祭りへと向かう人々が騒然としている。

 「女の子が刺された……誰かぁっ!」

 住人が絶叫する。子供の泣き叫ぶ声がする。

 
 わたしは首を起こそうとしたけれど、身体はまるでいうことをきかない。
 
 早く奏多の手を握りたいのに。奏多と夜祭りに行って、もっと思い出を作りたいのに。


 わたしに駆け寄る足音が頭に響いた。

 「夏希………!」

 奏多の声だ。

 わたしに触れるような感覚を感じて目線だけをなんとか上げた。